「アキは、あなたの事が好きでした」
「………」
 これは、もう会える事のない彼女からの、アキからの伝言。
「あなたがいたから、どんなに不安でも耐えれたんだと思います。あなたの優しさと暖かさが、どれだけ彼女を救った事か分かりません」
「……僕も、彼女との生活はとても安らかで、幸せなものだった」
 そう伝えて欲しいと付け加える。目の前にいるのは、彼女でなく沙希だから。
「でも、私はもうアキじゃないから」
「それで……良かったんだと思う」
 震える声で呟いた。いつまでも、御伽話の住人ではいられない事は分かっていたから。0時を過ぎて魔法が解けなければ、お話しにならないから。
 冬木沙希も、僕とまったく同じような表情をしていた。寂しそうに微笑んでいた。
「アキになれて、良かった」
 もう会えない彼女へ、僕と沙希の柔らかな想いは届くだろうか。
 頬を冷たいものが伝った。僕は随分、涙もろくなってしまったらしい。見ると沙希もぽろぽろと涙を流していた。綺麗だな、と思った。
「……でも、このまま終わりにしたくないんです」
「……え?」
 袖で涙を拭って、彼女は僕の目を見つめた。
「私も、アキの好きだった春さんに興味があるから。アキが、どんな風に春さんの事を思っていたか、知りたいから」
 だから、これが最後じゃなくて、始まりにしたいんです。そう彼女は笑う。
「君もやっぱり、アキに似てるよ――」
 前向きで、真っ直ぐで、全力疾走した後みたいな。
 泣きながら僕も笑顔を作る。変な顔だとお互いに笑った。