「私、大学に受かったんですよ」
 レジに紙パック飲料を持ってきた女子高生は、そう僕に誇らしげに言った。
 彼女は何ヶ月か前から僕のバイト先であるコンビニでいつも同じ商品を買っていくようになったお得意様で、こうしてよく世間話をする。
「それは……良かったじゃないか。おめでとう」
「来年は私と同じ大学受けたらどうですか?後輩になれるかも」
「勘弁してくれよ」
 軽口を叩かれて苦笑いする。彼女の受かったという大学は僕の頭では逆立ちしたって行けそうにない。
「で、約束覚えてるかなーと思って今日は報告に来たんですけど」
「……忘れてはいないけど」
 まさか、本当に受かるとは思ってなくて。呆れたように溜め息をつくと、彼女は私の行動力を舐めたら駄目ですよ、と頬を膨らませた。
 バイトが終わるまであと少しだったから彼女に待っていてもらって、僕は渋々彼女を自宅のアパートへ連れていった。錆の浮いた階段を上って、我が家の玄関を開ける。おじゃまします、と邪魔になるとは全然思っていないような風に彼女は我が物顔で僕の家に侵入した。
「前の住人は、タダだったけど。今度は食費くらいは入れて欲しいな」
「荷物とかも全部前のままなんですか?」
「なんだか、捨てられなくて」
 僕が彼女とした約束とは、つまり大学生となる彼女の下宿先にこの部屋を進呈するという事だ。頼むから本棚だけは綺麗にしておいて欲しいけれど。
「それにしてもさ。敬語、似合わないよ」
「うん、自分でも思ってた」
 でも頭良さそうに見えない?と悪戯っぽく笑う彼女に、そんなものなのかなと首を傾げる。彼女は彼女だ。本質的なものはあまり変わらない。
「じゃあ、またよろしくね?――春くん」