私を身ごもった時、お母さんは父にその事を伝えなかったらしい。ひっそりと父の元を離れて、一人で私を産んで、一人で育てた。
 父親なんていないものだと思っていたし、別に必要もないかな、なんて思っていたものだから、お母さんに死ぬ間際になって「どこどこの誰さんがあなたの父親だからそこを頼ってね」だなんて急に言われても逆に困った。
 いきなり現れた妾の子を果たして引き取ってくれるのか、と子供ながらに心配してみたけれど、意外とあっさり私は冬木家で暮らす事になった。可哀相な境遇の親戚の子供を引き取った。そういう事になっているらしい。
 呆れたというか何というか、父はお母さんの従兄だったのだ。
 この家は世間体ってものを酷く大事にするから、基本的に望まれていない子供だった私への風当たりは厳しい。
 それでも少しは気に入って貰えるように、私なりの努力はしてきたと思う。
 ひたすらに勉強を頑張って、中学校の試験ではトップ10以内には入れるようになった。結果は、誠一はいつも1位なのにと、出来損ない扱いだった。
 それならともっと勉強して、なかなかのランクの高校に入学した。結果は、誠一の通った高校の方がランクが上だったので、出来損ない扱いだった。
 勉強では誠一に敵わないかもしれない。何か打ち込めるようなものを探そうと思い部活を色々と試してみる事にした。結果は、お前は遊んでばかりだなと、出来損ない扱いだった。
 なんだ、これは。
 どんなに頑張ってみても、どんなに努力しても、私は冬木家の一員として認められる事がない。無駄な足掻きだ。
 それでもまだ諦めきれなかった私は、少しは気にかけて貰えるだろうかと髪を金髪に染めてみたりもした。結果はどうだろう。心配も何も、蔑んだような目で見られるのがオチだった。
 何だか、私の人生全てが馬鹿馬鹿しくなった。
 何度目になるかも分からない誠一との喧嘩の後、私は財布だけをひっつかんで家を飛び出した。行き先は決まっていた。昔、お母さんと二人で暮らしていたボロアパートだ。
 電車を降りてすぐ雨が降り出したけれどどうでもよかった。あのアパートはまだ取り壊されずにいるだろうかと、それだけが心配で懸命に走った。