口の中がカラカラに乾いていた。
昨日一人で通った道を、今日はアキを連れて二人で歩く。目的の町は僕の住んでいる町から電車で30分ほどの距離にあった。行き先を告げないまま黙々と歩く僕の後ろを、アキはわけが分からないといった様子でついて歩くけれど、僕はもう何を言えばいいのか分からなかったし、気の利いたジョークを言う余裕もなかった。ただ、ただ、歩く。
駅を出てから大きな通りをいくつか曲がって、やっと僕は立ち止まる。白い塀に囲まれた大きな和風の一軒家だ。表札を確かめる。ここで間違いなかった。
「ねぇ、ここどこ?大体、春くん昨日からなんか変だよ?」
後ろで首を傾げるアキになんて言えばいいのかはもう決めてあった。
何度も何度も、頭の中で繰り返した。
僕は努めて冷静な声を出せるように深く静かに息を吸った。家を出て、初めてアキに声を発する。
「――ここが、君の家だそうだ」
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